整理(艦これ設定まわり)

・前提として、そもそも艦娘という存在が超常的な逸脱を果たしたものにほかならない。

・ので、艦娘という設定はそのまま呑みつつ、しかし彼女らの扱う兵器に関しては現実の物理法則やミリタリーの常識から寸毫たりとも逸脱してはならぬとする態度は、少なくとも規範として無批判に採用していいものとは到底思われない。

・設定および世界観について語る際の要諦は、それらの組み合わせが無数の正しさを実現するということへの意識である。戦闘シーンのみのPV、つまり意図を推し量る材料に極めて欠ける現状に於いては、望ましい姿からの乖離によってこれを批判することは非常に難しい。制作側がどのような正しさを求めているのかわからないからである。

・重ねて言うが、艦娘や妖精といった存在を受け容れた時点で、全てを現実の法則に引き付けて考察する類の理路は所与の正しさを失っている。

 

・また、兵器の描写を現実に沿わせる立場は、そもそもが非常に頭を遣わされる類のものでもある、といった事実も忘れてはならない。

艦娘の存在以外に超常的な要素を仮定しない、つまり水上を滑る少女が実在兵器を使って戦うといった設定を採用すると、即座にいくつかの問題が立ち上がってくる。

・たとえば、通常兵器が効くなら深海棲艦の相手を艦娘がしないとならないのはなぜか、と問うことが可能だ。また、艦娘が人間サイズで兵器が通常兵器なのであれば、そんな豆鉄砲で倒せる深海棲艦は脅威たり得ないのでは、などと言ってしまうことも容易だ。実際の戦艦を使っては駄目なのか。爆撃では駄目なのか。

・そういった疑問に囲まれた時、超常性の射程を艦娘から装備にまで延長することが非常に簡単な解決であることに気付けるだろう。通常兵器では害することができない正体不明の敵。手垢にまみれた答えには安定感があり、こちらの方がよっぽど、基本として置く立場としては適格のように思われる。

・かように、兵器に関して常に現実の物理を優先するような立場は大変に考えるべき事項が多く、論者自身が正しさをパッチワークして自分なりの設定の連なりを示さねばならない類のものである。その過程には当然のように設定の捏造を盛り込む必要もあるだろうし、決して現実の兵器を参照して描写に異議を唱えればよいだけの立場ではありえない。

・設定同士の連関を無視して局所的に難癖を付けるのは、ありとあらゆるフィクションに対して可能な無敵かつ無意味な批判の手法にほかならない、ということ。

・論者の望むリアリティを確保しつつ、破綻の少ない世界観の構築に成功した二次創作は枚挙に暇がなかろうし、そのような立場での思考は艦これ世界がどうであるかの考察ではなく、艦これ世界がどうであれば面白いかの考察に、つまりは二次創作の糧として大変有用なものであるように、僕には思われる。